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今日は講談社文庫から出版されている、
東野圭吾「名探偵の掟」を紹介します。
あまりにも面白かったので、今回は引用を使いまくります。
(2/14追記:出版社を間違えていたため訂正しました

―――本格推理の様々な"お約束"を破った、業界騒然・話題満載の痛快傑作ミステリ。(裏表紙より)

名探偵・天下一大五郎と大河原番三警部が様々な事件に挑むミステリ短編集、と言いたいところなんですが。
初っ端から

名探偵ものには必ずといっていいほど、見当はずれな推理を振り回す刑事が登場してくるが、その道化を演じるのが私の役どころだ。


などと大河原警部は言ってのけます。
そう、この小説はミステリではなく、とにかく推理小説や探偵マンガに「ありがち」な展開を徹底的に皮肉った小説です。
プロローグから、また大河原警部の独白を抜粋します。
先程の「~私の役どころだ。」の続きから。

「なんだ、じゃあ楽な仕事だな」
という台詞が聞こえてきそうである。
(中略)
 とんでもない。
こんな辛い仕事はない。ちょっと考えてみれば、探偵役よりもずっと大変だということがわかるはずである。
(中略)
 真犯人を自分の手で見つけてはいけないということである。(中略)
 おわかりだと思うが、この制約はなかなか苛酷である。間違っても、真相に近づいたりしてはいけないのだ。
さてここで皆さんに質問だが、決して真相に近づかないためにはどうすればいいか?
そう、そのとおり。真相をいち早くつきとめ、それを避けるのが一番だ。つまり私は常に主人公である天下一探偵よりも先に事件の真相を暴き、わざとその推理を迂回しながらすべての行動を起こしているのだ。


探偵役と刑事役を"演じる"2人の掛け合いが笑えます。
ここには載せませんが、探偵側にも大きな制約があります。
辛いんですよね、とぼやく名探偵が切ないです。

連続殺人に巻き込まれてじっちゃんの名にかけちゃう某高校生とか、
旅行に行けば人が死ぬ、薬で小さくなっちゃった厄病神小学生とか、
あとはさまざまな推理小説とか、
好きだった人にはきっとたまらなく面白い小説だと思います。
少なくとも僕はにやにや笑いが止まりませんでした(電車内で

第一章ではミステリの定番「密室」について言及しています。

 もういいじゃないか今日び誰もこんなもの喜んだりせんぞと思うのだが、(中略)
 同じ手品を何度も何度も何度も何度も見せられている気分である。違うのは種明かしだけだ。そして種明かしが違っても、驚きには繋がらない。美女が空中に浮かぶという手品を、種が違うからといっていくつも見せられたって飽きるだけである。
ところが『密室』は性懲りもなく出てくる。
いったいなぜなんだろうか。
私は機会があれば読者のみなさんに伺ってみたいと思っている。あなた、本当に密室殺人事件なんか面白いんですかい。


ミステリ好きの僕が感じたのは、
たしかに「密室トリック」というのは定番というより「ベタ」ですよね。
だからそこに意外性など求めちゃいません。
けっして密室だから謎が深まって面白い、というわけではない。
東野圭吾はつまらないミステリが謎を作るための安易な「密室」に対して、問題提起をしているんです。
「密室殺人だから立派なミステリだぞ」などと安直に語るな、
と作者が言っているような気がしませんか?
このあたり、トリック見せるためだけに安易な動機で人が殺される作品はよく考えてもらいたいよなぁと思うわけです(まぁ何とは言いませんが

また、第三章では閉ざされた空間での殺人が起こります。

 孤島なり、閉ざされた山荘なりで殺人事件が起きるというパターンが、ミステリの世界ではしばしば見られる。(中略)
 もうちょっと工夫できないものか。いつもいつも大雪で山荘が孤立したり、嵐で孤島の別荘が孤立したりするのでは、読者のみなさんも飽きてくると思うのである。登場人物だって、いい加減うんざりしてくる。
そもそも舞台を孤立させる理由は、どこにあるのだろう?孤立させないと、どういう点がまずいのだろう?

(中略)
「だいたい、犯人はなぜこんな場所を選ぶんだろうな。『屋敷もの』なんかを読むと、いつも思うことだが、町中で通り魔的に殺すほうが、よっぽど捕まる可能性が低いんじゃないか」

ホントにありがちですよね、こういうパターン。
「一本しかない橋が落ちた」「大雪で警察の到着は明朝になる」
「電話線が切られている」などなど。
このネタを出してきた時には笑いを隠しきれませんでした。
作品内では名探偵役の天下一が
・容疑者を限定できる
・警察の介入がないから探偵が活躍できる
・同様に犯人も次々と殺人を犯せる
といったメリットを挙げていますが、
結局のところ密室と同じく話を面白くするためであり、
現実的ではないよねという結論に達します。
もう名探偵諸君は人里離れた田舎に行ってはいけないと思います。

終始こんな感じで、探偵ミステリのおかしいところを突きまくる、
ミステリファンにはたまらないブラックジョーク的な小説です。
一度、読んでみてはいかがでしょうか?
きっと笑ってしまうと思いますよ。

ちなみに巻末の解説によると、
東野圭吾はこの本で取り上げたすべての皮肉に対して
自分なりの解答を様々な作品を通して示しているようです。
皮肉るだけ皮肉って終わりではない、
もっと面白くしたいという意識が伝わってくるって、なんか格好いい。
まだ読んでない作品が大量にあります。少しずつ読んでいけたらいいな。
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