今年の電撃小説大賞受賞作品が発売です。
所詮ライトノベルと馬鹿にできません。
なにせ、過去の受賞作の「塩の街」が
自分の読書癖を取り戻させたきっかけですから。
しかし個人的な好みの問題で、今年は残念ながら
受賞作の方には手を出していません。
「塩の街」「ルカ」「ミミズクと夜の王」
この傾向が好きなんですけどね。
さて、そんなわけで今回紹介するのは受賞作ではなく。
「MAMA」。昨年紹介した「ミミズクと夜の王」、
その作者紅玉いづきさんの、第二作目です。
前作はライトノベルレーベルでありながら、
書店においてライトノベル売り場から切り離されて配置されるほど
確かな評価を得ている作品です。否が応でも期待が高まる。
つーわけでまずはあらすじっぽいものを。
面白そうに書ける自信はあまりないけれど、伝わってくれこの想い!
魔法に優れた一族サルバドールの直系であるトトは、
その血に逆らって魔法の素質をほとんど持たない少女だった。
ついた渾名が「サルバドールの落ちこぼれ」。
魔法の使えないサルバドールは「いらない」、
偶然にもそんな話を聞いてしまったトトは、神殿の書庫へ隠れる。
そこで出会った、ずっと昔に封印された人喰いの魔物。
魔物はその昔、人間の子供を喰らいその姿形を得たのだが、
耳についた魔除けのピアスに負けて、耳だけが手に入らなかった。
彼は迷い込んだトトの耳を喰らい、そして、「ひとりは寂しい」という彼女に、
―――一度だけチャンスをやろう。ボクに名前をつけてみろ。
「名付け」の儀式を持ちかけた。
新たな「真名」を得ることで、彼は封印を壊すことができるから。
しかし素質を持たないトトには出来るわけもない、
だから彼にとってはほんの気まぐれ、戯言のつもりだった。
―――じゃあ、ホーイチがいいわ。ぴったりよ。
東の国の使者から聞いたおとぎ話。耳だけ喰われた僧侶の話。
この名によって、儀式は成功してしまう。
―――トトが貴方のママになってあげる。
魔法の力に恵まれなかったトトは、
その耳と引き換えに、強大な力を持つ魔物の「ママ」となった。
少女の周りの世界は一変し、そして月日は流れてゆく。
お話は例によって魔法も魔物も出てくるファンタジー世界ですが、
根底に流れる「暖かさ」は前作と同じでした。
登場人物の暖かさ。
読んでいて心の温まる感覚。
作者からの、登場人物ひとりひとりへの愛を感じました。
暗闇だと思っていた場所は、目を、閉じていただけではないのか。
トトとホーイチの、歪んだ愛情。
その果てに訪れる結末は、
どれだけベタであったとしても、
その最後の「救い」は何にも変えがたく、
やっぱりこの作風が好きみたい。
紅玉いづきさんは、今後の動向が気になる作家のひとりです。
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